




開講部局:医学部・医学系研究科
坂本純一 教授
最終講義 - 基礎研究、Translational Research、 臨床試験から医療行政へ
授業時間: | 2012年度退職記念講義 |
日時 : | 2012/9/26 15:00-17:00 |
場所 : | 基礎医学研究棟4階第4講義室 |
退職にあたって
医学系研究科、ヤング・リーダーズ・プログラム、医療行政専攻 坂本 純一
私が名古屋大学医学部に入学したのは1969年、大学紛争の真最中でした。この年は中部地区だけでなく関東地方ほか日本の各地から様々な学生が名古屋に集まり、互いに切磋琢磨して独特な雰囲気を醸し出していた学年だったと記憶しております。
医学部卒業後直ぐ、親しい友人である野村隆英先生、小長谷正明先生と語らって大学院に入学し、近藤達平教授のもと、外科腫瘍学の研究をいたしました。博士号取得後、当時の名古屋大学第一内科第三研究室でアメリカから帰局されたばかりの珠玖洋先生より腫瘍免疫を学び、珠玖先生、上田龍三先生のご紹介によりニューヨーク、スローン・ケタリング研究所のLloyd J. Old先生のもと、腫瘍特異抗原を認識するモノクローナル抗体の開発を試み、Lewisa, Lewisb, A33の3つの抗原に対する抗体を確立して米国の特許を取得しました。
前述の2抗体を用いた血液型抗原の研究ではKenneth O. Lloyd先生の指導と古川鋼一先生のサポートにより、血液型関連抗原が消化管分化抗原として重要な役割を果たしており、さらに癌化によって抗原発現に異常が起きることを明らかにしました。また、3番目のA33は免疫グロブリンのsuperfamilyである糖蛋白抗原で、腫瘍特異的な発現を示していたことから、愛知県がんセンターの高橋利忠先生、群馬大学の遠藤啓吾先生のご支援によりヒト化したhuA33抗体を放射性ヨードでラベルし、胃癌に対するTranslational Researchとしての第一層臨床試験を行いきわめて興味深い成果を得ております。
医学部卒業後は臨床の医局に属していながらどちらかといえば基礎研究が主体の学究生活でしたが、1987年にEuropean School of Oncologyのセミナーに派遣され、Richard Peto先生、Marc Buyse先生と会って、当時黎明期にあった臨床試験を中心とした臨床研究の重要性を認識させられ、愛知県がんセンターの中里博昭先生、東京大学の大橋靖雄先生が進められていた様々な臨床試験研究やメタアナリシス研究に軸足を移しました。2001年には臨床試験の企画、運営に関する実務経験を認めて下さった福島雅典先生から京都大学に招聘していただき、福井次矢先生と一緒に、2種類の降圧剤を比較するhead to head大規模臨床試験を運営、完遂することができました。この京都大学における5年間で自分のライフワークともいうべき仕事を見つけることができたと思っております。
2006年からは濱口道成先生と伊藤勝基先生のお導きにより、名古屋大学医学部に戻り、開発途上国のエリート行政官に医療行政学の指導をするヤング・リーダーズ・プログラム講座の運営を手掛けました。このプロジェクトは議長の浜嶋信之先生、研究科長の祖父江元先生、国際交流室の粕谷英樹先生他、名古屋大学医学部、経済学部、法学部の諸先生がたによる多大なご支持・ご協力により、関連した中央官庁、各国日本大使館、また対象とした各国の政府機関からも高い評価を受けることができましたことは望外の喜びであります。
医学部を卒業してから37年間の間、基礎研究、Translational Research、臨床試験研究、医療行政と様々な分野にチャレンジしてきましたが、よき先輩、同僚、後輩、また様々な分野のかたがたのご指導、ご支援により、自分なりに興味深く、その時期その時期を楽しく、また満足できるような成果をあげることができましたことを、改めて皆様に心から感謝いたしたいと願っております。