
- ホーム >
- 文学部・人文学研究科 >
- 「モデル小説」から見るプライヴァシーの近代 >
- 授業ホーム




開講部局:文学部・文学研究科
日比嘉高 准教授
「モデル小説」から見るプライヴァシーの近代
授業時間: | 2009年度後期木曜5限 |
対象者: | 文学部3年生以上 2単位、週1回全15回 |
授業の内容
「モデル問題」は、小説の登場人物のモデルとされた者が、何らかの形で抗議することによって起こります。明治以来、さまざまな「モデル問題」が生じましたが、それが〈問題〉となった理由もまたさまざまでした。小説家がなにを書きたいのか、モデルは何に腹を立てたのか、どのような文芸思潮がその時代を支配し、どのような「常識」が人々を規定していたのか。複雑な要因が絡み合って起こる「モデル問題」を時系列にそって眺めていくと、文学と社会の関係——とりわけ小説表現と〈私的領域〉との衝突のありさま——は時代によって変化するということが如実にみえてきます。
この講義では、現在における「モデル問題」のあり方を出発点とし、さかのぼりながら明治期におけるその初発期の様相を探ります。トピックは三つあります。表現の自由とモデルの保護に関する現代的感覚の登場があらわになった柳美里『石に泳ぐ魚』とその裁判(一九九四〜 )、日本のリアリズム文学の立役者の一人でありモデルとのトラブルの絶えなかった作家でもある島崎藤村の軌跡(一九〇〇〜一〇年代)、日本で初めてモデル問題により発売禁止処分を受けた内田魯庵の「破垣」(一九〇一)です。
授業の工夫
大学の授業の中にも目標に応じていくつかのタイプがあります。その学問への導入を行うもの、発展的な各論を深めるもの、社会の中で役立つ知的スキルを修得するもの、などさまざまです。この授業では、私が目下考えている研究テーマについて半年間講義しました。
しかし、いきなり明治大正時代の小説とその社会的背景の詳細な考察に入るのも学部の学生には敷居が高いでしょう。そこでこの講義では、時代順を逆さまにし、少し前に話題となった現代作家の「モデル問題」についての話題から始めることにしました。自分が捉えたものを自分のスタイルで描きたい小説家と、小説なんかに自分自身のことを描かれ発表されては困るモデルとの間の葛藤。両者のいさかいに、その社会がもっているさまざまな規範や常識が影を投げかけます。現代のトピックから問題の輪郭をつかみ、徐々に百年前の事件にも考察の幅が拡げられるように配慮しました。
私たちの社会がいかに変わり、いかに変わらないか。具体的な文学の表現と、当事者・関係者の言葉のリアルな感触から、考えていってもらえれば幸いです。

最新年度の講義と内容が異なる可能性がありますのでご注意ください。